国際カップル半世紀、満身不具合夫婦のフランス移住紀行ーその11

■COVID-19

 フランスには、在外フランス人議会( L’Assemblée des Français de l’étranger=L’AFE )というしくみがある。

在外フランス人約200万人に対して15の地域から6年任期で90人の議員が地域毎に選挙で選ばれる。在外フランス人の権利や義務、福利厚生などの向上を目指すための議会を構成する代表だ。日本には3名の議員がいる。

 

その1人が、10月10日段階での、日本への入国手続きの体験を綴ってくれた。

エールフランスでの日本への入国空港は現在羽田は1便だけ。事実上成田からになる。成田は首都から離れた出島扱いだ。

成田に到着すると、まずPCR検査をされ、30分ほど結果が出るまで待たされる。30分なら随分と早くなった気がする。

もちろんマスクは、フランスの空港からエールフランス機内でも食事時以外で外すことはできない。しかも布製マスクは禁止だという。話題のアベノマスクは使えないのだ。

陰性の結果を持って、イミグレーションブースへ誘導される。そこでは、VISAや再入国許可証以外に、フランス出発前72時間以内に行われたPCR検査結果陰性の提示を求められる。つまり、フランスから出国する前72時間以内に検査をし、陰性でなければならないのだ。今のフランスで、出発便の予約と、PCR検査予約のタイミングを調整するのはそう簡単ではない。

検疫の担当官は乗客1人に付き2名が別々に同じチェックをするという。非接触性のサーモ体温計でのチェックもある。結局、降機から税関を通過するまでどんなに順調に行っても1時間15分はかかるという。

出口ではさらに自宅待機義務や公共交通を利用しない旨の申告審査があって、レンタカーないし、自家用車でしか自宅まで向かうことはできない。

自宅待機は2週間。外出は最短距離にあるスーパーや必需品のショップ限定だ。到着の翌日から毎朝、様子を伺う電話がかかってくるという。うっかりLINEを登録してしまった人には1日に何度も音声テープでの様子確認電話が繰り返し入って、鬱陶しいことこの上ないとのことだ。

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成田空港の入国に際するコロナ対策の注意事項


 

さて、こんな詳細情報を目の当たりにすると、全く日本への渡航意欲が萎えてしまう。それにしても、鉄壁の防疫体制はわかるが、来年に迫ったオリンピックはどうするつもりなのだろう。少なくとも我々が日本へ渡航するタイミングは当分訪れそうもない。

 

 

各国それぞれ、SNS上には何を信じていいか分からないような話が溢れている。しかし、だいたい起こっていることや論点は共通しているようだ。決して日本だけが特別ではない。

例えば、フランスでも、3月中頃には医療従事者への嫌がらせが発生している。

駐車中の医療関係者の車に、「ここには駐車するな」との張り紙があったり、自宅マンションのエレベーターで、露骨に「近寄るな!」と罵声を浴びせられたりの事件が相次いだ。

マスク警察なる人も日本ほどではないにしろ、マスクなしの人を咎める姿があって、パリなどではトラブルになった話も聞く。隣町のバイヨンでは、バスの運転手がマスクを付けるように注意した乗客に殺されるというショッキングな事件も起きている。

マスク不要論者が一定数いることも各国共通しているし、そもそも例年のインフルエンザと変わらないという専門家の話もあれば、個人の自由を侵害する国家権力の陰謀だとするものなど、各国共通だ。

このところの第2波と言われる拡大は、PCR検査の母数が大幅に増えたことに伴って、相対的に陽性反応が増えただけで、重症患者や死者数には大きな変化はないとの主張もある。近隣の大きな病院では、集中治療室には2人しか入っていないという話も聞いたばかりだ。

それにしても1日の陽性反応者数が2万7千人とかになると、尋常ではない。検査数の約1割が陽性という計算になる。しかし、この数字が多いのか少ないのか、深刻なのかそうでもないのかも判断できない。多くはすでに免疫を持っている人だともいえるのだ。

なにしろ、各国の統計の基準がよくわからない。特に死者に関しては直接の死因にコロナウイルスがどこまで関与しているのか、何度聞いてもよくわからない。死者数は圧倒的にもともと持病を持つ高齢者に多いことも、どうやら各国共通している。自宅待機を強いられてうつ病になったり、がんの検診ができずに手遅れになったりの事例も増えているという。友達との接触を遮断された子供が心に受けた傷は想像以上に大きいとの報告もあった。

 

 

我が家のあるバスク地方界隈は、エアバスを核とした航空機産業の中心地でもある。各種の部品メーカーがたくさんあって、これまで裾野の広い安定した雇用環境を保ってきた。ところが、ここへ来て、最もダメージを受けている大型産業の一つが航空機関連だ。フランスは、アメリカのようにドラスティックなレイオフはないものの、じわじわと、夜間シフトの停止や時短が始まっていて、いつ工場閉鎖になるか、不安をつのらせている。

自然災害が少ないはずのフランスに、この夏は干ばつ、山火事、さらに未曾有の洪水被害が相次いで、いよいよ地球温暖化の影響の深刻さが語られている。コロナに自然災害のダブルパンチだ。両方とも人類の自然破壊の結果だという論調も多い。

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一方パリ郊外の犯罪多発エリアでは、暴動や警察署襲撃事件などがこのところ目立ってきた。10月10日(土)夜、パリ郊外のシャンピニー・シュル・マルヌ(Champigny-sur-Marne)では、金属の棒などを持った約40人が警察署に向けて花火などを発射した上、乱入しようとした事件が発生。警察署の建物や車両に大きな被害が生じた模様だ。同じ警察署が襲撃されたのは、過去2年で3回目であり、今年に入ってパリ近郊の警察署が狙われたのは5回目だという。コロナ禍、景気悪化、社会不安が治安の悪化にも多大な影響を与えはじめているのだ。

 

マクロン大統領は、地方選挙に大敗したあと、7月初旬に内閣総辞職を敢行し、新首相にカステックス氏を任命した。これまで、コロナ対策に辣腕を奮ってきた保険行政の専門家だそうだが、一般国民には無名の官僚からの大抜擢だ。

大統領の支持率回復を狙ったサプライズ人事だと言われているが、今の所、コロナ対策にも際立った実効結果は見えていない。

このように社会が行き詰まったときに、大胆な政策を打ち出すのは、フランス政治の伝統でもある。

私は、なにかこれから大胆な試みが始まるような気もする。

 

アメリカの政策も、トランプ大統領の破天荒な行状が目立っていて、リベラル派からは批判的な話しか伝わって来ないが、水面下ではコロナとの共存政策についての大胆な構想が進んでいるとも聞こえてくる。これにヨーロッパ、フランスも注目しているという。

さらに、国際政治的にも大きな地殻変動が起こっているようだ。太平洋、インド洋を巡って、米、印、豪、日の安全保障体制の連携が進んでいるらしいし、中東でもイスラエルアラブ諸国の連携が現実化してきた。イランに対して、昔のアラブ対ペルシャの様相だ。中東を巻き込んだ地殻変動のときには、フランスは必ず手を突っ込んでくる。専門外の私にはよくわからないが、コロナによる閉塞感を抜け出すためにも、外交問題がクローズアップされ、スウェーデン方式採用程度の政策は出てくるかもしれない。最初英国がやりはじめて挫折したやり方だが、健康な若者の活力をいかして経済を立て直し、病気持ちの高齢者にはある程度諦めてもらう。戦争には犠牲者はつきものだから恐れずに勝利に向かうという考え方だ。こんな状態がこれ以上続くならやりかねない政策だと思う。

ヨーロッパ各国ではベーシックインカムの実証実験が以前より活発になってきているし、ヨーロッパが人類進化のいただきにあるという意識はいまだに強烈に感じられる。

フランス、ヨーロッパがCOVID-19を乗り越えどこへ向かって大胆な一歩を踏み出すのか、目が離せない時期が続く。