国際カップル半世紀、満身不具合夫婦のフランス移住紀行ーその2

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■フランス医療体制へのコミット

フランスに着くと早速、かかりつけ医と密接なコンタクトをとって、専門医の紹介や調剤薬局、各種検査体制等との連携ネットワークを創ることに集中した。そしてフランスの健康保険制度に対応する手続きなど、バイヨン(Bayonne)にあるCPAM(医療保険一次金庫)に足を運んで対応を相談し、必要書類の整理・取り寄せなどに集中して取り組んだ。

幸い、歩いて2分ばかりのところに診療所を構えるドクターは、CARINE一家のかかりつけ医でもあり、数年来我々も何度かお世話になっている。

事情を説明し、まずは日本で処方されている薬と同じもの、あるいは同じ効能のものを調べてもらい、処方箋を出してもらった。そして、すぐ近くにある薬局で、とりあえず必須の薬を処方してもらったのである。

ただ、この薬局の調剤システムが大変で、この件に関しては改めてまとめようと思っているが、薬はすべてメーカーのパッケージごとの箱売りなのである。患者側がバラバラの容量の薬を箱から出して自分の服用順に整理しなければならないのだ。10数種類の薬を朝昼晩さらに就寝時間前等、それぞれの服用数も整理して毎日服用しなければならない者には、とんでもない負担がのしかかる。このときほど、日本の薬局がありがたいと思ったことはない。

結局、渡仏後1〜2ヶ月の間に、腸の精密検査で検査入院をしたり、パーキンソン病の専門医の診療所を紹介してもらって、新たな薬の服用計画も独自に進めることができるようになった。リンパマッサージ師の手配などもできて、週2回の往診をしてもらえるようにもなった。

また、ドーパミン系の強い薬を大量に常用しているせいか、急に言葉がつかえて出なくなることがしばしばあって、かかりつけ医からOrthophoniste(オートフォニスト)なる専門家を紹介された。日本語では言語(発音)矯正士とかスピーチセラピストとか言うらしいが、日本にいたときには全く知らない医療専門家だった。心理的ストレスを取り除いてくれるエクササイズがいろいろあって、かなり落ち着きを取り戻すことができた。

これらすべてが保険制度の適用対象であり、任意の民間医療保険制度と合わせて対応する医療制度のもとで、基本的に医療費を直接支払うことはない。

この医療制度には、外国人であっても3ヶ月以上滞在する者には、規定の手続きさえ踏めば分け隔てなく適用される。移民、難民が押し寄せてくるはずだ。

こうして一通りの治療体制を確保することができたのである。

それにしても、フランスは理念の国であることを実感する。

フランス革命を支えた人権宣言に基づく国是「自由、平等、博愛(Liberté, Égalité, Fraternité )」の「Fraternité」、日本語では「博愛」と訳されているがなかなか難しい概念だ。在日フランス大使館のWEBでは「友愛」と訳されている。共和国市民相互の互助愛精神とでも言うべきものだが、単なる標語だけではなく、具体的な法律や様々な社会制度にしっかりと落とし込まれているのだ。

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フランス政府のロゴ デザイン的にも厳格に管理されている

フランスはすでに栄華を誇った時代の国力は、はるか昔に失っているにも関わらず、この理念に基づく制度は決して変えようとはしない。たとえ消費税が20%になっても、国民が血税でこれらの制度を支えているのだ。移民や難民に対してまで施される手厚い福祉政策はいつまで維持できるものか、外国人から見れば心配にはなる。これに寄生しようと押し寄せる移民難民を目の当たりにすれば、極右勢力が台頭するのもわからないではない。ただ、今のところは、財政改革を唱えてここに踏み込もうとすればすぐに大規模なストや暴動が起こり、たちまち政権は持たなくなる。共和国の理念はフランスのアイデンティティの根幹であり、全てのフランス的なもの、フランス文化が依って立つ基盤でもあるのだ。

市民革命の遺産は深く重い。